「うちの子、何でこうなの?」に寄り添う早期発達支援プロジェクト
こんにちは、
認定NPO法人発達わんぱく会事務局の芳賀です。私たちは児童福祉法に基づく発達支援事業所「こころとことばの教室こっこ(以下、こっこ)」を千葉県浦安市・東京都江戸川区で4教室運営し、発達障がい、またはその疑いのある未就学児を対象にオーダーメイドの早期療育を提供しています。
創業者の小田が法人を設立したのは、ある天才との出会いがきっかけでした。その方は読書好きな30代の男性で、ページを一目見ただけで内容を瞬時に理解できる才能の持ち主でしたが、耳から聞く言葉の理解が苦手で、働くことや生活することに大きな困難を抱えていました。もし彼が早期療育を受けていたら、彼に合った学習方法や人間関係構築の機会が与えられたなら、どんな可能性があっただろうと想像せずにはいられません。
私たちは創立以来一貫して「早期療育」の重要性を信じ、2020年12月に10周年を迎えました。累計利用者数は2,200人、療育提供回数は9万回を超えました。新型コロナ禍であっても支援を継続することを信念に、ITシステム経由のリモート支援という先駆的な取り組みも開始しました。しかし乳幼児健診における「発達障がいの可能性がある子ども」の割合は約10%と言われる一方で、全国で早期療育を受けられている割合はそのうちのたった10%と試算されます。私たちの活動をより多くの方の目に留めていただき、一人でも仲間を増やしたいという思いで、「
JPBVソーシャルビジネス支援プログラム2021@オンライン」に参加し、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」に登録させていただきました。
この問題の解決に挑む私たちの志は、以下の記事をご一読ください。
凸と凹「登録先の志」No.13:小田知宏さん(認定NPO法人発達わんぱく会 理事長)
1.何が問題か?
★困りごとを抱えた当事者:発達障がい及びその疑いのある未就学児とその保護者
★困りごとを象徴する数字:乳幼児健診における「発達障がいの可能性がある子ども」の割合は約10%(未就学児に占める人数は57万人+その保護者相当数)
発達障がいは生まれつきの脳機能障がいであり、症状は個人によって大きく異なります。社会に出て初めて生きづらさを感じることで意識する場合も珍しくありません。しかし、それぞれの特性に合わせた適切な療育をすることで、他者と関わる力を伸ばすことができます。重要なのは、保護者の気持ちに寄り添いながらより早期に始めることです。療育効果が高い上に、他者から受け入れられないことによる不登校、鬱病等の二次的な悩みの抑制にもつながります。育てにくさから孤立しがちな保護者も、早期にお子さんの特性を理解し、かかわり方を学び、同じ環境の保護者にかかわることで自然に不安が軽減され、笑顔が増え、親子ともに自分らしい社会生活を送ることができます。
早期療育の機会を逃しているケースはさまざまです。保護者がそもそも発達障がいに気づかない、気づいても療育の有効性を感じない、有効性を感じても療育を受けるには自治体から「障がい福祉サービス受給者証(以下、受給者証)」を取得することが必要なため心理的ハードルが高い、近くに事業所がない…。私たちは保護者に発達支援の有効性に気づいてもらうことが重要と考え、受給者証が必要ない「早期発見事業」を行っています。段階的に必要な支援につなげるためための重要な入口ですが、児童福祉法の制度外であるがゆえに国からの報酬がなく、採算が合わない取り組みを行っている事業所は少ないのが現実です。
2.誰と解決するか?
★先行事例:福島県白河市における発達障がい早期発見支援-専門職が巡回し、全年中児の各園における遊びを観察する「すこやか相談会」を第2の健診を位置づけ、発達障がいの早期発見支援に努めている。
子どもの発達に不安を抱える親子への支援は大きく3つのグループに分けられます。
(1) 行政機関による支援:すべての子どもが保健所による1歳半健診・3歳健診を受け、必要に応じて発達に関する個別相談を行うことができます。こっこへ相談が入るタイミングもこうした定期健診のタイミングがほとんどです。その後の診断を踏まえ、自治体の障がい福祉課が受給者証の発行や民間支援団体の紹介を行います。一方で行政支援は地域におけるすべての子どもが対象となるため、きめ細やかな支援を行うことが困難です。
(2) 民間団体による支援:保育園・幼稚園による保育の提供、お子さんの成長過程に応じて助言を行う相談支援事業所による支援、さまざまな特色を持った児童発達支援事業所による療育の提供などがあります。発達障がいの認知度も上がり、民間団体による支援は増加傾向にありますが、専門性に裏付けられたお子さんに合わせた支援という観点からはまだまだ発展途上にあるのが現状です。
(3) 専門機関による支援:発達障がいに関する研究団体や診断等の医療サービスを行う医療機関があります。私たちが運営するこっこは、専門性を持った有資格スタッフがチームでお子さんに合ったオーダーメイドの療育を提供することが特徴的です。法人の中には教育チームがあり、専門機関による発表や勉強会の機会をスタッフに共有し、知識をアップデートしています。研究団体と支援現場の距離は遠いですが、こっこが橋渡し役となり、療育現場で活用しています。
3.どう解決するか?
★ビジョン(ありたい社会像):すべての子どもが発達障がいを持って生まれても、自立したその人らしい大人になって、豊かな人生を送れる社会
★ミッション(法人の役割):発達障がいのある子どもが、コミュニケーションの力を身につけ、長所を伸ばし、地域のなかで自分らしく生きていけるよう、家族、地域、行政のみんなで支援する
私たちは、お子さんへ療育などの支援を届ける「(1) 直接支援事業」と、創立以来蓄積してきた直接支援に関するノウハウを支援者へ提供する「(2) 間接支援事業」の2つの軸で、10年後の長期アウトカムを実現しようとしています。
(1) 直接支援事業:
★2030年の長期アウトカム「その子らしい人生を歩む自身の基盤が整っている」
「早期療育事業(こっこ)」では、現在約220人のお子さんに療育を提供しています。また「計画相談支援事業」では、主にこっこ利用者を対象に成長段階に応じて必要となる支援へつないでいます。この2事業は児童福祉法の対象事業となるため、利用者の受給者証取得が前提になります。一方、「早期発見事業」は多くのお子さんに利用してもらうことを目的としており、受給者証は必要ありません。「こどものひろば」は発達に不安を抱える保護者がお子さんを連れて出入り自由で参加できる無料の遊び場で、教室を開放し専門スタッフが相談に応じています。(新型コロナ前の2019年度では)利用者の15.9%がこっこの療育につながりました。「ふれあいようちえん」は6か月単位でさまざまな活動を行い、必要な支援を保護者と共有していくプログラムで、(上記同様2019年度では)利用者の41.7%がこっこの療育につながっています。お子さんは療育を通じて他者とのコミュニケーションの意欲を育み、長所を伸ばすことで自分らしい人生を歩む基盤につながると考えています。
(2) 間接支援事業:
★2030年の長期アウトカム「その子らしい人生を歩む環境が整っている」
早期療育の機会をさまたげる要因の一つである「近くに事業所がない」を解決するために、児童発達支援所を開設したい方・事業運営を改善したい経営者向けにコンサルティング事業をしています。5年前に開始し、開設支援先は北海道から九州まで約30社に増えました。専門スタッフが保育園・幼稚園を訪問し助言を行う巡回支援事業は、累計対象児童数4,200名にのぼります。この他、研修事業、講演会の実施も行い、お子さんを取り巻く周囲の方々へ発達障がいの理解を促進しています。近くにこっこがなくても、早期発見・早期療育の重要性を基礎としたこっこのノウハウが間接的に全国へ広がることで、お子さんが生まれ育つそれぞれの地域において療育の量と質が向上し、適切な環境で成長していけるようになることが重要と考えています。
4.“志金”のつかいみち
みなさまからいただくご支援は2023年度の早期発見事業に活用します。早期発見事業の年間運営費は465万円で、ほぼすべてを他の事業収入と寄付収入でまかなっています。新型コロナ禍でこっこの定員に制限を設けており、他の事業収入に影響がある中で、早期発見事業の継続にお力添えいただければとてもうれしいです。
★こどものひろば:浦安市東野校・浦安駅前校の2校において週1回開催
★ふれあいようちえん:浦安駅前校において隔週開催、参加親子には半年間のプログラムに参加いただく、年間2クール開催
★相談窓口:火曜~金曜、発達の相談を受け付ける電話窓口を開放
★OYAKO BASE【NEW!】:発達不安に関わらず、親子が「初めての小さな社会」に出る準備を支援する場、親子サークル・学生サークル等とのコラボレーションにより不定期開催
従来、発達に問題意識を持つ親子は孤立しがちですが、新型コロナ禍でさらに行動が制限され、保護者が発達の課題に気づく機会自体が減少していると言われています。早期発見・早期療育を取り巻く社会環境が厳しくなっているとともに、その重要性はますます大きくなっていると体感しています。支援が必要なお子さんが早期療育を通じて人生を自分らしくわんぱくに歩む、そんなお手伝いをみんなでしていきませんか。
5.伴走支援者の声
わんぱく会理事長の小田さんは愛知県出身で、地元で活動するぼくを以前から応援いただいていました。ぼく自身も事業者へのコンサルティング等では、ソーシャルビジネスのロールモデル的な存在として、わんぱく会さんをいつも紹介してきました。そんなわんぱく会さんを伴走支援させていただくことは、ぼくにとっては“恩返し”であり、“力試し”の機会でもあります。
わんぱく会さんが2020年末に開催した設立10周年記念のオンラインイベントで、小田さんは「2030年までに発達障がい児の幼児を今の10倍(28,000人/全国の対象児の10人に1人)支援している状況をめざす」と宣言されました。(下記URLの動画の23分01秒~28分52秒のところです。)
https://www.youtube.com/watch?v=AZ_2NqZeuFA
この動画を見てぼくは、専門性の高い現場での実践だけでなく、その知見を他地域に広げる事業所の開設・運営支援も手がける、わんぱく会さんならではの夢だなと、とてもワクワクしました。
先に掲載している『ロジックモデル』は、その夢の実現に向けたロードマップです。この夢を実現するには、受益者負担だけではまかない切れず、行政からの委託事業にもなっていない「早期発見事業」を、地域内外問わず、みんなで応援していく必要があります。各地に広がるロールモデルを一緒に育んでいきましょう!(木村)