NPO法人ソルウェイズ共同代表理事の運上昌洋です。当団体は2017年に設立し、重症児デイサービス(重症心身障がい児に特化した児童発達支援・放課後等デイサービス)、生活介護、居宅介護、訪問看護の事業所を運営してきました。医療の進歩に伴い、全国的に医療的ケア児は増えており(厚生労働省)、今後も増えることが予測されています。当事者家族だからこその視点も併せて社会課題を抽出し、「どんな重い障がいがあっても地域で生きる」を理念に活動してきました。
全国的にも、北海道でも、医療的ケア児も利用できる通所型(デイサービスや生活介護など日中に施設に通う)・訪問型(訪問看護や居宅介護など家に訪問する)のサービスは増えていますが、日中の限られた時間でしか対応することができず、宿泊も含めて1日を通して重い障がい、特に医療的ケアのある子どもたちを預けられる場所が非常に少ないのが現状です。重い障がいがあってもお泊まりができる場所がないため、「家族、特に主な介護者である母親は夜間にぐっすり眠ることができない」「ケアの多い障がい児との時間が多いことできょうだい児との時間をつくることが難しい」「日々の生活に余裕がない」という状態です。
また、社会を動かすほどの声を届ける活動をするのも難しいので、制度にも反映されず、福祉事業者がお泊まりできる施設(ショートステイ)を継続的に運営するのは難しいという問題が生じています。
こうした課題を解決するため、「
北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト」を2022年9月から開始することになりました。
まずは2025年までに重い障がいがあってもお泊まりできる施設を1か所つくり、他団体ともノウハウを共有しながら北海道各地に拠点を増やし、地域での生活を続けるための仕組みづくりを広げていきます。
重い障がいのある子どもとその家族が住み慣れた地域で暮らすためには、当事者と家族、医療・福祉・介護に従事する者、地域住民、地方自治体、地域の団体や法人と情報交換、意見交換しながら構築していく必要があります。SDGsでも「誰一人取り残さない」と謳われていますが、重い障がいのある子どもたちが暮らしやすい地域は、誰もが暮らしやすい地域になると考えています。
この問題の解決に挑む私たちの志は、以下の記事をご一読ください。
凸と凹「登録先の志」No.18:運上佳江さん(NPO法人ソルウェイズ 共同代表理事)
凸と凹「登録先の志」No.23:運上昌洋さん(NPO法人ソルウェイズ 共同代表理事)
重症児デイサービス、生活介護、居宅介護、訪問看護と、地域のニーズに合わせて事業展開を進めてきましたが、日中の限られた時間でしか対応できず、宿泊も含めて1日を通して子どもたちを預かることができないということが課題です。当法人の理念「どんな重い障害があっても地域で生きていく」ためには、夜間も安心して気軽に預けられる場所が全国各地に広がっていくことが理想です。
しかし、要望が多いにもかかわらず、図の左側のような悪循環になってしまっているのが日本の現状です。重い障がい、特に医療的ケアがあってもお泊まりできるインクルーシブな拠点をつくることで、好循環に転じるアクションを起こしていくことができると考えています。
重い障がいのある子どもや医療的ケアが必要な子どもとその家族は、さまざまな医療・福祉のサービスを利用しています。地域のNPOや住民との交流や、家族会での情報交換や支え合いも、各地域で行われています。
しかし、短期入所することができる施設が少なく、特に、重い障がい、医療的ケアが必要な子どもが利用できる施設はその中でもごく一部です。利用できるとしても、数か月前から計画を立てて予約するような状況なので、いつでも気軽に利用できて「お友だちとお泊まり会」「おばあちゃんの家にお泊まりに行く」のようなワクワクして利用するものではありません。
さらに、地域住民との交流や、医療的ケア児の旅行者も利用できるような短期入所施設もありません。
よって、どんな重い障がいがあっても暮らせる地域をつくっていくためには、当事者とその家族、地域の医療・福祉のサービス、行政、家族会、団体・法人や住民などと共に、重い障がいがあってもお泊まりできるインクルーシブな拠点づくりから始まる「北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト」が必要だと私たちは考えています。
2022年7月1日、医療法人財団はるたか会が千葉県松戸市に日本初の福祉型レスパイトハウス「
やまぼうし」を開所しました。医療的ケアが必要な子どもたちがお泊まりできる場所を、全国に展開するためのロールモデルとなる場所です。私たちも「やまぼうし」と連携させていただきながら、北海道でもお泊まりのできる拠点を増やすモデルをつくっていきます。
2021年に医療的ケア児支援法が施行され、医療的ケア児及びそのご家族の生活を、社会全体で支援しなければならないとされました。SDGsでも「誰一人取り残さない」と謳われていますが、重い障がいのある子どもたちが暮らしやすい地域は、誰もが暮らしやすい地域になると考えています。
「北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト」では、まず2025年までに重い障がいがあってもお泊まりできる施設を1か所つくり、他団体ともノウハウを共有しながら北海道各地に拠点を増やし、地域での生活を続けるための仕組みづくりを広げていきます。
地域で生活するということは、当事者・その家族と医療・福祉のサービスやその横のつながりばかりが強くなっても実現には至らず、行政、家族会、団体・法人や住民と情報交換や交流を行いながら、地域全体で医療的ケア児とその家族を支えていく仕組みをつくっていくことが必要です。
みなさまからご支援いただいた“志金”は、「北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト」の第一弾として予定している、どんな重い障がいがあってもお泊まりできるインクルーシブな拠点をつくるための準備に、活用させていただきます。
▶︎ショートステイのシミュレーション
寄付や助成金の一部を活用し、重症児デイサービスでのショートステイのシミュレーションを実施します。ホームページ内のブログやFacebook、Instagram、Twitterでも活動報告を行います。
▶︎視察・調査
(1) 視察:医療的ケア児のショートステイを運営している施設の視察を予定しています。視察後は、勉強会を実施します。
(2) 調査:当事者や家族へのアンケート調査・ニーズ調査を行い、公表します。
▶︎啓発
プロジェクトの発信や報告、次年度以降の準備のために、啓発活動を行います。
(1) ホームページの改修、SNS運用
(2) 勉強会実施(視察後報告、先行事例や社会背景などの勉強会、座談会等)
(3) 報告書作成・郵送:年1回
(4) 企業訪問・説明会
(5) ふるさと納税制度を活用して行うクラウドファンディングに関する行政への働きかけ
(6) 北海道各地への啓発活動
(7) プロジェクトの資料作成:図面作成、書類作成、雑費等
重い障がいのある子どもとその家族が、住み慣れた地域で暮らしていくために、当事者とその家族、医療・福祉・介護に従事する者、地域住民、地方自治体、地域の団体や法人と情報交換、意見交換しながら、プロジェクトを遂行していきます。
みなさまからのご支援をもとに、みなさまとともに「北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト」を育てていきたいと考えています。ぜひ仲間になっていただけるとうれしいです。
5.伴走支援者の声
ソルウェイズ共同代表の運上夫妻のうち、佳江さんのことは書籍『
なければ創ればいい! 重症児デイからはじめよう!』等で、重症児2人の娘さんがいるパワフルなお母さんが北海道にいらっしゃると、伴走支援の前から認識していました。でも、伴走支援を始めて、夫の昌洋さんも、佳江さんに負けず劣らずのパワフルさで、人生をかけて挑まれていることがよくわかりました。
現在、札幌市には重い障がいがあり医療的ケアが必要な子どもたちが約300名いるそうですが、2017年にソルウェイズが設立されるまでは、札幌近郊に医療的ケア児を受け入れてくれる施設はほとんどなかったそうです。ソルウェイズ設立後の5年間で、5か所のデイサービス、生活介護や居宅介護の事業所、訪問介護ステーション等を続々と開設し、他団体にもノウハウを提供するなどして、今や約20か所のデイサービスが札幌近郊に存在するようになったのは、地元で設計事務所等を15年にわたって経営してきた昌洋さんの手腕が大きかったように思います。
また、地元の医療・介護ネットワークや商工会議所、商店街、自治体等のさまざまな役職を引き受けて地域の活動にも積極的に参加するなど、医療的ケア児のことを地域で発信し続けてきたのも、昌洋さんでした。地元の市長選前、市の職員さんたちに相談があって集まってもらったら、職員のみなさんは昌洋さんが市長選に出るための相談と思っていたそうです。そんなエピソードからも、昌洋さんの地元における存在感が伝わってきます。
こうした5年間の活動によって、医療的ケア児やその家族が同じ地域に暮らしていることを、地域のみなさんにも少しずつ知ってもらえるようになってきました。「知ってもらう」の次はいよいよ「地域で暮らし続けられる環境づくり」です。今の日本で最も弱い立場にある子どもたちとご家族が地域で生きていくためのプロジェクトが、開拓の歴史を持つ北海道から始まりました。私たち一人ひとりが「誰一人取り残さない」SDGsを実践できるチャンスでもあると思います。それぞれの立場で、できる限りの応援をいただけるとうれしいです。(木村)