くまもとシェアステーションプロジェクト
一般社団法人ウィメンズ・フォーラムくまもと代表理事の藤井宥貴子と申します。私は自分自身が子育てに悩み、子どもを産んだことを心からで喜べないという経験をしたことから、育児サークルを発足。1997年に「女性が子育てをしながら自己実現をめざせる会社をつくろう」と
有限会社ミューズプランニングを創業し、2022年に25周年を迎えました。ミューズプランニングでは主に「女性・子ども支援」を軸に、情報発信事業や熊本県と熊本市の男女共同参画センターの指定管理、熊本市のファミリーサポートセンター事務局運営(委託)などに取り組んでいます。
私たちは、創業25周年を機に新たな団体「一般社団法人ウィメンズ・フォーラムくまもと」を立ち上げ、シェアステーションプロジェクトをスタートすることにしました。これは2012年にミューズプランニングとして企画しながらも実現には至らなかった、「時間と気持ちの受け皿を持った女性と子どもの居場所」を熊本地震の被災地である益城町に設置し、必要な支援を必要な人につないでいくコミュニティサポートの拠点をつくっていくものです。
度重なる自然災害や長引くコロナ禍の中で、困窮していくひとり親世帯や、子育ての負担感を抱え追い詰められている女性たちの拠り所をつくり、孤立化を防ぐことを通して、誰一人取り残さない、誰もが自分らしく働き・暮らせる社会をめざします。「どんな時にも決して一人にしない」が私たちの合言葉です。
1.何が問題か?
★困りごとを抱えた当事者:ひとり親家庭や生活困窮家庭など、何らかの支援を必要とする女性とその子ども
★困りごとを象徴する数字:
・自殺者数の年次推移:2022年の自殺者数は21,881人で、前年に比べ874人(4.2%)増。男女別に見ると、男性は13年ぶりの増加、女性は3年連続の増加となっている。
・児童虐待通告児童数:108,050人(2021年警視庁まとめ)
・2022年度の熊本県内の児童虐待の相談件数:2,764件(過去最多)。内容は「面前DV」などの心理的虐待が1,563件(56.5%)、身体的虐待716件(25.9%)、ネグレクト437件(15.8%)、性的虐待48件(1.7%)。相談経路は警察が半数以上で次いで学校など。虐待された子どもの年齢は7~12歳(34%)、3~6歳(25.6%)、0~2歳(19.3%)の順に多く、約8割が小学生以下。虐待者は実父が52.5%で、実母は38.9%。
一瞬のうちに大切なものを失ってしまう経験をした2016年の熊本地震。私たちは自らの被災経験を通して、災害時に忘れられがちな女性や子ども支援の重要性を痛感し、ひとり親家庭を対象にした食事会や野外体験活動などを行いました。
さらに、2020年から続くコロナ禍の中では、ひとり親家庭を主な対象に食材の配布やPCのスキルアップ講座、地域食堂の開催などにも取り組みました。その中で聴こえてきたのは、経済的な困窮ぶりや子育ての負担感、生きづらさを抱えて追い詰められている女性たちの不安な声でした。
上記のような相談が複数寄せられ、国や県の報告にもある女性や子どもの自殺や虐待増加の要因が他人事ではなく、ここにあると確信しました。そして実際に大切な仲間を失ってしまうという、悔やんでも悔やみきれない現実に直面したこともきっかけとなり、現状の場当たり的な支援では間に合わない。自分たちにできる支援活動を一歩踏み込んだ形で実践していきたいという結論に至りました。
下のグラフは2022年に警察庁から出された自殺者数の年次推移を示したグラフ(上)と、児童虐待通告児童数のグラフです。いずれも長引くコロナ禍の影響を受け、生きづらさを抱え、何らかの支援が必要な女性や子どもが増加しているという深刻な状況を表しています。
これまでの取り組みの中で見えてきた支援を必要とする女性の多くは、仕事(職場)のこと、子どものこと、夫婦のこと、自身の家族のこと、自分の体調や将来のことなどの悩みを抱えながら、誰にどのように伝えればいいのかわからないという状況にありました。公的な相談窓口があるにもかかわらず、悩みを抱えながら相談できない、解決の方法がわからないという行き詰まり感の中で、子育てや仕事、暮らしへの気力もゆとりも失われてしまうという、負の連鎖に陥っていると思われます。
この負の連鎖を断ち切るためには、まずは女性や子どもが気軽に立ち寄れ、日々の慌ただしさからひと時でもほっとできる場所で、日ごろの小さな悩みや心のひっかかりを話すことができる「女性や子どものための時間と気持ちの受け皿を持った居場所」が必要だと考えました。そして必要な支援を必要な人につないでいき、ここに親の経済的自立に向けた支援や情報をプラスすることで、より根本的な支援につながると考えます。
2.誰と解決するか?
★先行事例:公益社団法人沖縄県母子寡婦福祉連合会が取り組む「
沖縄県マザーズスクエア ゆいはぁと」事業-ひとり親世帯を対象とした総合支援事業で、2012年からスタートした事業。拠点事務所を県内3か所に置き、住宅支援や学習支援、技術力向上支援事業、子育てサポート事業、親子交流事業、生活物品貸与事業などを行っている。
そのための支援方法について、地域の関係機関や団体を含んだ相関図を描いてみました。真ん中には支援を必要とする女性とその子ども、周囲には支援団体や専門家、行政機関、そのゆるやかなネットワークの中に「シェアステーション」が加わり、子育てしながら働く・働きたい女性や子どものための時間と気持ちの受け皿を持った居場所を確立します。そこで私たちは、必要な支援を必要な人につないでいくつなぎ手の役割を果たします。
時間と気持ちの受け皿とは、私たちのこれまでの取り組みの中から気づき得たことで、そこが担保されていないと根本的な課題の解決は難しく、その場限りの支援で終わってしまうという自分たちの過去の経験からの反省でもあります。支援を必要とする女性の多くが、経済的自立が難しい状況にあり、常に時間や気持ちのゆとりが持てないという課題を抱えています。そこで支援のポイントを、時間と気持ちのゆとりのなさを受け止めることに置き、まずはそこをしっかり担保した居場所をつくることをベースに、互いの関係づくりからスタートしていこうと考えました。
身近な場所に気軽に立ち寄れる居場所ができることで、女性や子ども支援の間口が広がると考えています。
3.どう解決するか?
上記のロジックモデルは、母体であるミューズプランニングとともに、2030年を見据えて描いたものです。ウィメンズ・フォーラムくまもとの取り組みは、一番下段の茶色の部分に示しました。2030年には、私たちが取り組む「シェアステーション」が熊本県内複数個所に設置され、支援の輪が広がっていくことを目標に掲げ、2022年秋ごろから益城町での取り組みを準備してきました。
シェアステーションがめざすのは、子育てをする女性と子どもの時間と気持ちを受け止めながら、「暮らし」と「子育て」と「しごと」を包括的にサポートする支援拠点をつくること。地域に根差した気軽に立ち寄れる場所で、ゆっくりとくつろいだり、不安や悩みを解消したり、仲間と出会ったり、経済的な自立に必要な支援を受けたりと、好循環に転じるアクションを起こしていくことで、女性や子どもたちの笑顔をつないでいきます。益城町の惣領地区にある「コミュニティスペースこがみ舎」を活用し、取り組みを進めていきます。
この場所で私たちが取り組むのは、以下の4つを想定しています。
●A:時間と気持ちの受け皿を持った居場所-コミュニティカフェ(週末開催)
親子が気軽に立ち寄れる週末カフェを実施。庭も活用してリラックスした時間を過ごせる環境をつくります。将来的には就業支援・生活相談なども組み込んでいければと考えています。スタッフには、ひとり親などで副業を希望する方の優先採用を予定しています。
●B:こがみ舎放課後クラブ(月・水・金曜日の放課後開催)
主に学習支援や生活支援を通して子どもたちの育ちを見守り、親のさまざまな負担軽減につないでいきます。スタッフには、シニアや学生のボランティアを想定。少しでも早くスタッフの体制を整え、週末や長期休暇にも実施できるようにしていきたいと考えています。
●C:親子食堂・フードパントリー(月1回開催)
これまで不定期で行ってきた親子食堂を月に1回、定期開催します。食堂開催時にはフードパントリーも行います。スタッフは地域のボランティアの方やミューズプランニングの社員が交代で担当します。
●D:仕事・副業センターの設置(月1回開催)
PCスキルアップ講座やキャリア相談・求人票公開会など、仕事につながる取り組みを行います。担当はミューズプランニングの他、キャリアカウンセラーなど専門家の方々に応援してもらいます。
上記A~Dの取り組みは、これまでもミューズプランニングの事業やスタッフそれぞれの個人活動として不定期で行ってきたものです。これらを定期開催し、決まった場所で継続して実施していくことで、確実に課題解決につなげられるケースは増えるはずです。ひとりでも多くの支援を必要とする女性の心の声を受け止め、必要な支援につないでいくことができれば、現状はきっと変えることができると信じて取り組みます。
4.“志金”のつかいみち
本プロジェクトに取り組むにあたり、2023年度の経費はおよそ650万かかると想定しています。事業Bのこがみ舎放課後クラブにおける学習支援(平日)のスタートに必要な有償ボランティアの人件費や夕食提供にかかる資金を調達するために、クラウドファンディングにも挑戦していますが、残りは自己資金や複数の助成金申請、寄付金などを募りながら、できるところから順次スタートしていく予定です。
事業予算については、以下を想定しています。
●A:子育てしながら働く女性と子どもの居場所-60万
●B:こがみ舎放課後クラブ(平日・土曜・長期休暇含め)-420万
●C:フードパントリー+親子食堂-50万
●D:仕事・副業センターの設置-40万
●その他:初期費用(環境整備費・広報費等)-80万
※それぞれの事業の人件費については、学生やシニアの有償ボランティアに加え、副業を必要とする女性を優先的に採用することで、支援を必要とする女性の経済的な支援に充てていきます。
支援を必要とする子育て中の女性の多くは、経済的不安定さと子どもの教育についての課題を抱えており、「学習塾に通わせたいけれど経済的な理由で通わせられない」とするひとり親家庭はかなりの割合で存在します。私たちはこれまでの取り組みの中で、子どもたちの放課後を充実させることで、その状況は好転するという手ごたえを感じています。子どもが安心して学習し、心身ともに安定してくれば、必ずや親の精神的経済的負担の軽減にもつなげていけると考えます。また、私たちが子どもを介して親とつながることで、相談や公的支援の窓口がより身近になると思います。
創業26年目の挑戦として私たちが取り組む「シェアステーションプロジェクト」、多くのみなさまの志とともに、その一歩を踏み出せることを心から願っています。どうぞご協力・ご支援のほど、よろしくお願いします。
5.伴走支援者の声
ミューズプランニングさんへの伴走支援は、2022年1月からスタートしました。開始時に藤井さんからいただいた要望のひとつは、創業25周年を迎えるにあたり、そろそろ世代交代を見据えたいということでした。そこで、ミューズさんがいつまでにどこまでをめざすのかをまずは明らかにするために、「
ロジックモデル作成支援オンライン研修」に取り組んでもらうことになりました。
ロジックモデルをつくるプロセスでわかってきたのは、ミューズさんの本業である「女性支援」だけをこのまま続けていっても、ビジョン(ありたい社会像)に掲げる「すべての女性が自分らしく輝ける社会」にはたどり着けないという、ある意味で“残酷な”現実でした。藤井さんは、熊本における女性起業家のロールモデル的な存在です。その彼女が25年間、人生かけて挑んできた「女性支援」だけでは社会を変えられないと、女性が働く「職場支援」と、女性が暮らす「地域支援」にも挑戦するんだと腹をくくっていく姿はとても美しく、伴走支援者冥利に尽きる思いがしました。
こうして、「女性支援」や「職場支援」を行う有限会社のミューズさんだけでなく、「地域支援」を行う一般社団法人のウィメンズ・フォーラムくまもとさんは誕生しました。これまでは「事業収入」や「受託収入」を主な財源としてビジネスに取り組んできた藤井さんたちが、「会費・寄付」や「補助・助成」も財源とするソーシャルビジネスにもチャレンジするわけですから、最初は寄付を依頼することに少し抵抗感もあったようです。でも、“絵に描いた餅”ではなく、覚悟してつくったロジックモデルだからこそ、
初挑戦のクラウドファンディングでも順調に支援者を増やしているように思います。世代交代は少し先になりそうですが、創業から四半世紀を踏まえての新たなチャレンジ、ぜひ応援いただけるとうれしいです!(木村)