岡崎かけこみハウスプロジェクト
NPO法人葵風(あおいのかぜ)の月東(がっとう)佳寿美です。障がい児童を中心に共生社会・子どもたちの明るい未来をつくることをめざし、2015年10月に活動を始めました。
福祉予算が年々減らされる中で、支援の狭間の子どもたちの行く場が減り続けている現状があります。医療的ケアが必要な子からコミュニケーションが苦手な子、どの子の個性も大切にしたい。家庭生活支援、学習支援、放課後等デイサービス支援、子ども食堂などの事業を通じて、個別の問題解決を図っています。
行政支援の変化についていくことができず、地域につながらない子どもや親は相談する相手もなく、時代の流れの速さに取り残されています。地域の子どもたちには、頼りにできる居場所と家庭環境に合わせた食材配布、調理方法などを提供しながら、自立支援につなげています。
体罰をしない子育てをしたくても相談する相手や体罰を受けて育ってきた親は、SOSを出せる人とのかかわりも少なく体罰を続けてしまうなど、問題の行動が多くなりがちです。困難や困窮の生活状況を救済し、一人の子ども・親も見捨てることなく個々の幸せを追求し、数多くの児童に自分らしく幸せに生きる能力を身につけてもらいたいと思っています。
この問題の解決に挑む私たちの志は、以下の記事をご一読ください。
凸と凹「登録先の志」No.14:月東佳寿美さん(NPO法人葵風 理事長)
1.何が問題か?
愛知県の虐待相談対応件数は10,000件近くに上るといわれています(令和元年度「愛知県虐待相談対応件数」より)。この数は前年度から22%以上増えた数値であり、これらもどうにか相談に至った場合の数のため、家庭内に隠されたまま相談に及んでいない数を含めた実際の数値は、おそらくもっと多いと想定されます。そうした問題の背景にある要因の一つに、親子それぞれの社会的な孤立が挙げられます。
まず子どもですが、周囲にうまく溶け込めない、馴染めない子どもの多くは、居場所を求めて家庭や親との関係に依存するようになります。そうした子どもは親との関係が壊れることを恐れるあまり、「親にとってのいい子」でいるために自分の気持ちを隠し、本来なら発信できるはずのSOSがうまく出せなくなってしまいます。そうしているうちに、子どもはつらいはずの環境にもやがて順応してしまい、さらに助けを求めることをしなくなり、問題発覚の遅れやあるいは問題の長期化につながります。
親の方も、そうした家庭に多くみられる経済的な不安や、相談できる相手がいないことによる心細さと緊張、糸口を見つけられずいつまでも解決につながらないことからくる精神的疲労などにより、不安定な状態になります。そうした健全でない状況は親からさまざまな余裕を奪うこととなり、そうした苦しみからなる負の感情は、親にとって一番身近な存在である子どもへと向かいやすいのです。
地域や子どもの通う学校などの外部もその状態に気づき、助けようと手を差し伸べますが、そうなったに親はそうした第三者の意見の受け入れがすでにできなくなっている場合がほとんどです。それどころか、周囲の関心を「責められている」と取ってしまう状態になった親は、地域コミュニティや会社などで問題行動を起こしてしまうことも少なくありません。
それほどまでに親子の社会的な孤立は深刻であり、さまざまな困りごとの根源となりうる問題です。だからこそ、解決案のひとつとして「居場所づくり」が必要だと考えています。子ども食堂という物理的な居場所、よろず相談という精神的な居場所を起点に、地域で余った食材や物資の活用などを通じて関係を築き、困っている人たちが頼れる場所をつくることで、地域や学校などの社会に支えられながら生活していけるようになります。
私たちは健全なサイクルをつくり出すために重要な、地域の誰もが頼ることのできる「居場所づくり」に取り組むことにしました。
2.誰と解決するか?
親子の社会的な孤立を防ぐためには、彼らに直接かかわる人びとのほか、間接的にかかわる存在との連携も重要です。
親子とかかわりを持つ機関として、学校や病院、警察が挙げられます。それらは親子それぞれに直接接する機会があるため、子どもを通じて、親を通じて、あるいは近隣トラブルや通報の実績などの客観的な情報から、親子が現在どういった状況に置かれているかを把握することができます。
一方で、相談支援事業所や包括支援センター、民生・福祉の各委員、近隣の店舗や地域住民などの地域全体、あるいは市町村の役所、社会福祉協議会、児童相談所などの公的機関は、本人ないし近しい人からの相談や、場合によっては通報を受けることによって、間接的に彼らの問題を把握することができます。
しかし現実には、個人情報保護の問題や各組織がそれぞれの特性を特化させたことによる弊害で、各機関同士がうまく連携を取れず、情報の共有が遅れ、迅速な状況の把握や問題解決の糸口をスムーズに見つけられない場合があります。
そうした隔たりをなくすために、葵風では子ども食堂や相談支援事業などの親子への直接的支援を継続しながら、それを手がかりに得た情報を必要な機関へつなげています。また必要に応じて、問題解決に向けた各機関の連携窓口の役割も担っています。
3.どう解決するか?
★ビジョン(ありたい社会像):子どもたちの笑顔と明るい未来をめざし、子どもとともにまちが成長していく社会
★ミッション(自団体の果たす役割):
・困難な状況にある子どもたちを継続して支援する
・子どもたちや地域の人たちが信頼して安心して過ごせる、心と体の居場所をつくる
・支援機関をバリアフリー化&ネットワーク化し、地域・福祉・障害の垣根を超える
私たちは親子の社会的孤立を防ぐため、(1) デイサービス、(2) 緊急支援、(3) よろず相談、(4) 子ども食堂・フードドライブという4つを軸に活動しています。
(1) デイサービス
発達に困難を抱える子どもたちの療育を行い、将来自立して豊かな人生を歩んでいけるよう支援します。また子ども本人だけでなく、彼らを支える親の不安や困難にも寄り添い、社会的弱者といわれる人たちが孤立しない環境を整えます。さらに、地域に開けた療育環境を整えることで交流を図り、さまざまな状況に置かれた人たちが当たり前に一緒に暮らしていける社会をめざします。
(2) 緊急支援
虐待被害など、緊急避難が必要な児童の受け入れをします。その際、児童の精神的なケアはもちろんのこと、受け入れた児童の状態を観察し、避難が必要な被害に至った経緯の手がかりを探します。また、その現状を関係機関に伝え、問題解決の手助けをします。
(3) よろず相談
子育ての困りごとや経済的困窮、生活環境に関する問題を抱えている人など、困難な状況にある親子の相談に対応します。状況や問題の整理を行い、必要に応じて関係各所へつなげます。また、相談者の不安が解消され、話を聴いてくれる相手がいると実感できることで、精神的な安定につながるようにします。
(4) 子ども食堂・フードドライブ
子ども食堂を定期的に実施し、貧困による食料の不足など、家庭に困難を抱える親子を支援します。また、その際に地域有志からの寄付や、企業から寄付される規格外品などを利用することで、フードロスを削減します。同時に、経済格差という重要な社会問題への学びや、困っている子どもの存在を我がごととしてとらえられる地域の横のつながりを強化します。
4.“志金”のつかいみち
こうした取り組みの実現に向け、食品などの現物による支援につきましては、ありがたいことに多くの応援をいただいております。心より感謝を申し上げます。
しかし、事業を運営していくにあたって必要な人件費などの資金については、デイサービスの運営費からまかなうか、個人負担に頼っている現状です。
そこで4つある葵風の事業のうち、以下の2つの事業を中心にみなさまからの“志金”を活用します。
(1) 子ども食堂などの「物理的な居場所づくり」
・子どもの集まる場を提供
・食事・食料の提供
・子どもの家庭状況を把握しフォローアップ
・子どもに関する各種研修会の実施(貧困、スタッフへの教育など) 等
(2) よろず相談による「精神的な居場所づくり」
・相談事業の提供
・支援先への連携 等
【主な対象】
・障がい特性を持っている子どもの親
・子育て中の親
・女性相談(経済的困窮、DV被害、ネグレクト、近隣地域トラブル、生活環境に関する相談等)
困難を抱える子どもたち、またその親の社会的な孤立を防ぎ、地域コミュニティや会社などで問題行動を起こしてしまう親、家庭を含めたみんなで助け合える社会をつくる。そのためには身体的にも精神的にも安心できる「居場所」が必要で、そうした取り組みによって、みんなが安心して成長できる社会をめざす礎になると考えます。
みんなで困りごとを共有し、みんなで解決を助け、また自分が困った時にも助けてもらえることが当たり前の社会。けっして孤独ではない、みんなとつながっているのだと実感できる社会の実現に向けて、葵風は活動を続けていきたいと考えています。
5.伴走支援者の声
目の前の困難を抱えた家庭に真摯に向き合い、一人の子ども・親も見捨てることなく活動している葵風は、地域に欠かせない存在になっていると感じます。ミーティングや電話でお話した時に「ついさっきまで緊急支援の子の対応をしていて…」と聴くことがたびたびあり、日常的に緊急支援をされていることを実感しました。
困難を抱える子どもたちや親との関係を築いていくためには、身体的にも精神的にも安心できる「居場所」が必要で、これまではデイサービスの運営費からまかなったり、個人負担に頼ったりしてきました。
それでも何とか活動を続けてこられているのは、地域のみなさんのたくさんの応援があってこそ、ということもお話を伺ってわかりました。「甘夏おじいさん」や「お米のおじさん」等、名前も知らない地域の方たちが支援者としていらっしゃることにとても驚きました!
子どもたちが自分の気持ちを言えたり、頼ることができる場所をつくるためには、大人の手をもっともっと借りる必要があります。そのコミュニティづくりのためでもあるこの活動を「マンスリーサポーター」としてぜひ応援してください!(長谷川)