くまもと「ぽかぽかハウス」プロジェクト
はじめまして。
NPO法人ワークショップひなたぼっこの山中権太郎です。障がいを持たれている方が地域の中でたくましく豊かな生活ができる社会をめざして、熊本県天草市で活動しています。
2002年4月、障がいを持たれている方が地域と交流できるように手助けすることからひなたぼっこは始まりました。その後、障がいを持たれている方への支援を本格的に行うため、一般就労ができない方へ就労を提供する継続支援B型事業、発達に不安がある子どもへの療育支援として児童発達支援事業や放課後等デイサービス事業、障がいへの不安がある方が気軽に相談できる場所として相談支援事業を開始し、障がいを持たれている方が地域で不安なく生活できるように活動を行ってきました。
これまでは公的サービス事業により支援を行ってきましたが、このままでいいのか…という考えが生まれてきました。障がいを持たれている方に居場所と呼べるところができたり、家に引きこもっていた人が家から出られるようになったりと、確かに地域の中へ生活の第一歩を踏み出せるようになったと思います。しかし、地域における障がいへの理解はまだまだ低く、これからは地域の方と一緒に支援を行うことで、私たちのめざしている社会を実現したいと思います。
1.何が問題か?
★困りごとを抱えた当事者:熊本県天草市で障がいを持たれている方
★困りごとを象徴する数字:日常生活で発達障がいについて十分に理解されていないと感じている当事者や家族が90.4%(社会における発達障がいへの認知や理解に関する全国調査:一般社団法人チャレンジドLIFE)
●世間と当事者との認識のズレ
「発達障がい」という言葉の認知度は99.8%となり、どのような障がいかということも78.6%と、かなり高い認知度となっています。しかし、それに反して当事者や家族が日常生活で十分に理解されていないと感じている人が90.4%となっており、かなりのギャップが生じている現状があります(社会における発達障がいへの認知や理解に関する全国調査:一般社団法人チャレンジドLIFE)。
また、障害を持たれている方の手助けをした経験については、38.2%の方が「ない」と答えており、そのうち79.5%は「困っている障がいを持たれている方を見かける機会がなかった」となっています(平成29年度障害者に関する世論調査:厚生労働省)。
●熊本県天草市での現状
天草市では人口全体の7.7%となる6,381人が何らかの障がいを持たれているとされています。これは決して低い数値ではなく、日常生活においてどこかで障がいを持たれている方を見かけたり、接する機会がなければおかしいと考えられます。
この要因として考えられるのが、障がいを持たれている方と地域の交流の場がないということが考えられます。また、障がいによって家にこもりがちになり、そもそも家の外で会う機会がない可能性も挙げられると考えます。天草市で障がいを持たれている方へ支援をする中で、障がいに対して家族が恥ずかしいと思って隠すケースも多々見てきました。このような中では障がいも持たれている方がさらに地域から孤立していくことになってしまいます。
●負のサイクルを正のサイクルへ
障がいについて恥ずかしいと思うことは障がいについての理解が進んでいないことが原因となります。地域全体が障がいについて理解ができていないため、家にこもってしまったり、例え家から出ることができたとしても、公的サービスや障がい者支援を行っている団体のみで支援している現状があります。これにより障がいを持たれている方の困りごとやニーズに対して把握や対策を十分に行うことができず、結果として地域から孤立してしまっているのです。
この負のサイクルから抜け出すためには、障がいについて地域の理解を十分に得る必要があります。地域の理解を得ることで地域全体で支援を行うことができ、それにより障がいを持たれている方が地域と共生しながら安心・安全で豊かな日常生活を送ることができます。
2.誰と解決するか?
★先行事例:
(1) 子ども食堂やフードパントリーを通じて、地域の高齢者と子どもたちの交流の場を提供している「まるちゃん家(熊本県天草市)」
(2) 地域との交流の場をさまざまな方法で行い、地域と障がい者との接点や地域の社会資源を創出している「NPO法人わくわーく(福岡県北九州市)」
(3) 子ども食堂を運営する中で運営基盤強化や活動目的の明確化を行い、資金調達にも力を入れて活動している「小郡みんな食堂(山口県山口市)」
(4) 岐阜県で障がい者支援を通じて、地域との協働を行っている「社会福祉法人いぶき福祉会(岐阜県岐阜市)」
障がいについての理解を得るには、さまざまな方とのつながりが必要になります。公的サービス事業においては、行政や社会福祉協議会より情報提供やサポートを受けることができます。発達に不安がある子どもについては、教育機関との連携もとても重要となります。
現在は行政や他支援機関との連携を行って障がいを持たれている方を支えていますが、それだけでは障がいを持たれている方が安心して豊かな生活を送るには不十分です。障がいを持たれている方の困りごとの洗い出しやその解決を行うには、地域住民の協力が不可欠となります。交流の場で障がいについての理解を促進し、地域全体で障がいを持たれている方を支援していくコミュニティをつくっていく必要があると考えています。
3.どう解決するか?
★ビジョン(ありたい社会像):障がいをもっていても、地域の中でたくましく豊かな生活ができる社会
★ミッション(自団体の果たす役割):天草市で障害をもたれている方と地域をつなげ、社会生活を行えるよう支援する
(1) 日中支援
一般就労が困難な障がい者には、金銭的に自立した生活ができ、仕事に楽しみを見出せるように仕事を提供していきます。将来的には一般就労ができるようにスキルアップや仕事に対するモチベーションを上げていくようにしていきます。療育が必要な障がい児には、教育機関卒業後、日常生活における自立と地域の一員として充実した生活を送ることができるように、自己肯定感や社会適応能力の向上をめざします。
(2) 生活支援
障がいを持たれている方やそのご家族の中には、将来や仕事、子育てなど、ざまざまな困りごとを持っています。しかし、それをどこに相談すればいいのかがわからない方もいます。そのような方に対して気軽に問い合わせられるよろず相談を行い、日常生活における心配がなく生活できるようにします。
(3)地域協力
障がいを持たれている方への支援は行政や障がい支援事業所だけでは不十分で、地域の協力が不可欠です。そこで、地域交流イベントや地域食堂を開催し、地域コミュニティをつくり出します。そこでは地域の方と障がいを持たれている方が交流し、障がいについての理解を深め、困りごとの洗い出しを行います。そして、地域全体でその困りごとに対して解決する方法を模索していきます。
4.“志金”のつかいみち
支援者のみなさまからの“志金”は、地域イベントや地域食堂などの場づくりにかかる運営費、障がいについての理解促進のための広報活動費として使用させていただきます。
この活動は公的サービスとしてまだ整備されておらず、自費での運営が必要となります。補助金などでまかなえる部分もありますが、毎年継続的に確保できる保証はありません。だからこそ、みなさまからの“志金”が必要となります。私たちの活動に賛同いただける方や地域住民の方からの“志金”で運営することで、さまざまな方からの理解と協力をいただいている活動として、私たちも励みになります。
場づくりは、障がいを持たれている方への支援の輪を広げ、地域共生を目的としています。しかし、それを前面で出すことで障がいを持たれている方が参加しづらくなることが想像されます。そのため、障がいの有無にかかわらず、地域の方との交流の場として開催したいと思います。
社会課題を解決するには、ひとりの力、ひとつの組織だけではどうすることもできません。しかし、一人ひとりと協力してくださる方が増えてくることでできることも増えてきます。障がいを持たれている方への支援は少しずつですが改善傾向にあります。それでも当事者からすると安心できる生活とはほど遠いのが現実です。中にはその現実を受け入れてしまい、「仕方ない」という言葉で自分を納得させてしまっている方や、どうにかしたいが方法がわからないという方もいます。
私たちは、そのような現状を地域の方や協力していただける方と一緒に解決していきたいと考えています。障がいを持たれている方がしたいと思うことができ、隣りには話したり相談できる地域の方がいるという「豊かで安心して生活できる社会をつくる」という思いに賛同していただき、一緒につくり上げていっていただける方からのご支援をお待ちしています。
5.伴走支援者の声
ひなたぼっこの事業拠点がある熊本県天草市には2015年に一度、仕事で伺ったことがあります。行きは船、帰りは飛行機(天草エアライン)で行き来したこともあってか、とにかく「遠い」という印象があります。その「陸の孤島」とも言われる天草市でも最南端の牛深地区で、障がい者に対する差別や偏見をなくそうと奮闘する兄弟と縁あって出会いました。理事長の山中権太郎さんと、事務長の山中祥悟さんです。
お二人の性格を一言で表すなら、とにかく「真面目」。『
凸と凹マガジン』に掲載するためのインタビューに、兄の権太郎さんは3,000文字を超える原稿を準備して臨んでくれました。月に2回行う定例会議で毎回出る宿題に、弟の祥悟さんは締め切り前に余裕を持って提出し続けてくれました。
漫画『宇宙兄弟』の南波兄弟にも決して負けない、熱い思いを持った山中兄弟は2022年、障がいのあるなしにかかわらず、地域の人たちが交流できる地域食堂「ぽかぽかハウス」を始めることにしました。その運営資金を寄付で集めることにしたのは、ひなたぼっこの支援者が増えれば増えるほど、障がい者への差別・偏見が減っていることを可視化できると考えたからです。
「変革は、弱いところ、小さいところ、遠いところから」といいます。とにかく「遠い」ところからの、とにかく「真面目」な兄弟の挑戦を、ぜひ応援してください!(木村)