【レポート】SBC発足準備会・第1回「ドイツ・オランダ訪問調査参加者限定オンライン勉強会」を開催しました
2024年04月10日
開催日時:2024年4月2日(火) 13:00~15:30
作成者:コミュニティ・バンク京信 ソーシャル・グッド推進部 脇敬允(わきたかまさ)
●ドイツ・オランダへの訪問調査事前資料~ソーシャルバンクの今とこれから~
・講師:株式会社風とつばさ 代表取締役 水谷衣里(みずたにえり)さん
・関心領域・専門分野:ソーシャルイノベーションの推進、ソーシャルエコノミーの創出、社会的インパクト投資・ソーシャルファイナンス
・お取組:民が担う公益の可能性と価値を拡充する
・ソーシャルセクターとの関係:(公財)チャンス・フォー・チルドレン、(一社)世田谷コミュニティ財団、(公財)パブリックリソース財団、(公財)日本非営利組織評価センター
・インパクトや変革のあり方の言語化:インパクト投資拡大に向けた提言書2019「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」を公開。
~ソーシャルバンクの今とこれから~研修報告
●ソーシャルバンクとは何か?
社会的な使命を持つ事業に対して積極的な投融資を行う金融機関のうち、とくに「銀行」として業を行うもののこと。
●ソーシャルファイナンスとは何か?
経済的・金銭的利益と社会的利益の双方を追い求める組織によって提供される金融。
●ヨーロッパでソーシャルバンク、ソーシャルファイナンスが注目されてきた背景
・金融危機:2007年から2010年にかけて金融危機を背景に中産階級の没落感情からくる社会の不安定が失業などの雇用環境の変化と家計にも大きなダメージを与えた。
・移民・難民の増大:社会不安による経済の衰退はヨーロッパの低成長国格差拡大を生み、さらに国境自由化がアフリカ、中東からの移民難民の増加に繋がる。
・排外感情の拡大:移民、難民の増加は反グローバリズムや右傾化の加速をまねくことになり、民族、宗教問題、テロへの恐怖など治安悪化へと変化。
⇒この“金融危機”“移民・難民の増大”“排外感情の拡大”をはじめとした社会変容に対して寛容さや持続可能性を追求するソーシャルバンク、ソーシャルファイナンスへの注目が集まり、戦争による物価高なども足元ではさらに加速要因となった。
★トリオドス銀行について★
●1968年に研究グループとして創業し、1980年に銀行業を開始(GABV共同設立者)。
HPメッセージTriodos Bankからも分かるように、事業がソーシャルバンクであることを明確にメッセージとしてを打ち出している。
●HPに掲載されているメッセージ
私たちは、何千人ものお客様が、日常の銀行業務や投資を通じて、人々と地球を第一に考えることができるよう支援しています。Triodos当座預金口座から、長期的な前向きな変化をもたらすことを目的とするインパクト投資ファンドまで、今年は変化を起こす年にしましょう。
あなたのお金には力があります。
銀行は、あなたのお金を使ってさまざまな組織に投資し、融資します。したがって、地球と社会に前向きな影響を与える組織だけを支援する力は、あなたとあなたの銀行口座から始まります。
私たちは次のようなものに融資しています。
・再生可能エネルギー
・持続可能な農業
・教育
・慈善団体
・公営住宅
私たちは次のようなものに融資していません。
・化石燃料
・ファストファッション
・武器と弾薬
・タバコ
・森林破壊
あなたのお金がどこに行くのか、安心してください。
私たちは、投資し、融資するすべての組織について透明性を確保しています。それらはすべて、当社の Web サイトのマップで見つけることができます。あなたのお金がどのように前向きな変化のために機能するかを、ご自身の目で確かめてください。
●業務内容について
・リテール・バンキング:欧州のネットワークを通じて、目的を持った商品を顧客に提供。
・ビジネス・バンキング:ポジティブな変化をもたらすために活動する団体に融資。5つの転換テーマ(エネルギー、食糧、資源、社会、ウェルビーイング)に融資。
・プライベート・バンキング:持続可能な開発を促進するための資金活用について助言。
・インベストメント・マネジメント:さまざまなリスク・リターンプロファイルを持つ20のファンドを運用。
・トリオドスRegenerative Moneyセンター:TriodosSustainable Finance Foundation、TriodosVentures B.V.、TriodosRenewable Energy for Development Fund、TriodosFoundationを通じて、革新的かつインパクト・ファーストのアプローチで資金の貸付、投資、寄付を実施。
●アニュアルレポートより
・2023年の総収入は4億6,630万ユーロ(約746億円)。2019年から毎期増加。
・2023年の税引後純利益は7,720万ユーロ(約124億円)。
・上記に加えてトリプルボトムラインアセット(※)を公表。
※トリプルボトムラインアセット:トリオドス銀行では総資産に占めるreal economy(実体経済)比率及び、社会的エンパワーメント、環境再生、経済回復力(人、地球、繁栄)に焦点を当てた資産割合を公表。
⇒顧客貸出のほぼすべてが実体経済分野であり、トリオドス銀行では総預金量に対して75~85%を目標値としている。
・総資産に占める実態経済の割合:77.3%
・総資産に占めるトリプルボトムラインアセット割合:82.0%
●トリオドス銀行のあるオランダの銀行業の状況
・1990年代に保険業の兼業解禁を背景に銀行同士、保険会社との合併が進行。2000年に586行あった与信機関は2023年1月85行まで減少。
●銀行の大別
・民間銀行として著名なING銀行は旧郵便貯金銀行の流れを汲む民間銀行で1986年の民営化から銀行、大手保険会社との合併を経てINGグループを設立。
・オランダにおける協同組織系金融機関:欧州では農家が金融機関から高利の融資を受けないといけない時代背景があったことから農業信用組合(agricultual credit unions)が設立され、欧州の中でも特にドイツでも協同組合、信用組合をルーツとする協同組織金融機関の存在感が大きくなっていった。ドイツをはじめとした組合運動はオランダにも波及し、1895年には同国にて農業信用組合銀行が設立された。
・Rabobankグループ:オランダに波及した協同組合をルーツとする金融機関は数を増やしたが、1972年設立のRabobankグループがそれらを集約し中央与信機関としての位置づけとなっている。
●ソーシャルバンクの融資におけるアプローチ
・大方針:ポジティブなインパクトをもたらす様々な分野の企業や起業家に融資を行うことを大方針とし、持続可能な融資実現のために財務面以外の様々なアプローチを行う。その中には、融資するすべての組織の詳細を公表することが含まれる。
・トリオドス銀行における貸出方針:3つのフォーカスエリア「Environment」「Culture」「Social」を設定。
・各エリアに明確な投資詳細を設定し公開すると同時に上記エリアへの積極的な投融資方針を鮮明にされている。また、分野別ビジョンペーパーを公開しており、そこには具体的な「融資を行わない企業や産業」についても言及→Lending Criteriaの公開。
●預金者に対する説明(融資先の公開)
トリオドス銀行HPでは世界中の投融資先をマップ上にて詳細を公開。さらに主要なステークホルダーと3種のカテゴライズで対話を実施。また。同行の戦略策定にむけて、支店の所在する各国からの参加者からなる会議を実施。世界全体の役割や、果たすべき責務、注力分野などについて議論。
●新たなうごき
トリオドス銀行では様々な経営方針の中で、近年5つのトランジションテーマを設定。「エネルギー」「食料」「資源」「社会」「ウェルビーイング」の5つの転換テーマ。
★GLSコミュニティ銀行について★
・ドイツ第8の都市ボッフムに本部を置く1961年設立の銀行。
・国内最初の「倫理的運用基準」を有する金融機関で「お金の使い方を変えよう」というスローガンをもつ。
・顧客ローンは52億8千万ユーロ(約8.4千億円)、総預金は49億2千万ユーロ(約8千億円)。
・除外基準:12の分野と投融資を行わない国(死刑の執行を行っている国、原子力拡大に取り組む国など)の設定。
・ポジティブ基準:持続可能な開発を促進し、環境・社会に責任ある方法で事業を行い、バリューチェーン全体に環境的・社会的側面を取り入れることで経済的成功を収める企業、人材、組織に融資・投資する方針を表明。
・トリオドス銀行同様でフォーカスエリアを設定しており、GLSの場合は6つに分類。
・分類数は異なるものの、その詳細エリアは比較的ニアリーな分類となっている。
・GLS銀行では再生可能エネルギー、健康とソーシャルケアでポートフォリオ46%を占めており、トリオドス銀行のおいても36%と高い比率となっていることが特徴。
★ISBについて★
・2006年に設立したソーシャルバンクの概念やファイナンストレーニングを提供する機関。
・世界13か国の17団体が加盟。
・具体的なファイナンストレーニングとしてサマースクールを開催。
・例年20か国約80名程度が参加。参加者はソーシャルバンク、NGO、学生など幅広い国と背景の個人、組織が参加。
・サステナブルバンクのリサーチを出版:UNEP(国連環境計画)ともワーキングペーパーを作成。ISBの銀行業務における市民の役割に関する国際サマースクールを通じて集まったワーキンググループ「ウィーン市民グループ」によってUNEP調査への貢献として作成。
https://www.social-banking.org/wp-content/uploads/2017/08/Values_Based_Banking_pdf-1.pdf
報告作成者の感想
・欧州で著名なソーシャルバンクの歴史は1970年代の金融危機をはじめとした社会の変化に大きく影響を受けていることが今回の気づきとして一番大きかった。個人としてはソーシャルバンクの素地は金融機関が作ったのでなく、社会の要請が民意として大きくなり金融機関の変化のうねり繋がったような感覚を覚えた。
・その上で金融機関の社会への還元がソーシャルバンクとしてのかたちとして時間をかけて醸成した背景はとても感銘を受けた。
・特に日本に置き換えたときに20年前にはなかった社会の変化が国内においても欧州と似たものとして現在起きているように感じた。金融危機という意味においてはデジタルバンキングの進捗もあり手元に金融機能が手に入る時代となり必ずしも同じとは思わないが、金融だけではなく政治不信など社会不安ということにおいては欧州に近いものを感じており、日本社会においても変化の民意が社会に生まれつつあるように感じた。
・社会不安のながれでオランダの金融機関の状況をみると、民間金融機関、協同組織系金融機関が日本と遜色なく存在し特にアグリ分野でその裾野がひろがったことは日本の農業組合系金融が担った役割ではないかと思います。一方で欧州との大きな差は地域の人々の金融参加にあると今回強く感じた。特にソーシャルバンクにおける預金者に対する説明は詳細に尽くされており、預金者の資金が着実に投融資先として問題ないことを明確に示されている点は日本の金融機関にとって大きな気づきになるように感じます。
・またその投融資方針の開示についても明確かつ鮮明でそれ自体が銀行の経営方針のメッセージとして預金者に届いていることがわかります。しかもそれは銀行の財務方針にとどまらず社会変化へのアプローチであること。ここに金融機関としての存在理由が日本の金融機関との違いとして印象強く学ぶことができました。
・その上で “預金者とのコミュニティ”について新しい関心テーマとして今後調査したいと確信しています。
以上、ありがとうございました。