『わたしの未来、あなたの想いと、やさしい街へ』プロジェクト
認定NPO法人うりずん事務局長の我妻英司(あづまえいじ)です。「医療的ケア児」をご存知でしょうか? 医療的ケア児とは、日常的に人工呼吸器や経管栄養、痰の吸引などの医療的ケアが必要となる子どものことです。介護を担う家族の大半は、毎晩3時間以上続けて眠れないという状態です。
うりずんでは、まだ法的な制度が確立される以前の2008年から医療的ケア児を日中お預かりして、24時間休みなしの厳しい介護を担うご家族に、ひと時の休息と自由な時間を提供する活動、レスパイトケア事業を行っています。
うりずんの特徴は、人工呼吸器など、重症度の高い子どもを積極的に受け入れることです。1人の医療的ケア児に対し、看護師や介護士が付きっきりで介護を行います。そのためには、ほぼマンツーマンの手厚い人員体制が欠かせません。
また、「安全・安心・楽しい」をモットーに、医療的に安全に預かるだけでなく、お友だちやスタッフと楽しい遊びの中で、成長を促せるよう療育面にも力を入れてきました。子どもたちがストレスなく楽しい、笑顔がいっぱいのケアを大切にしています。
この問題の解決に挑む私たちの志は、以下の記事をご一読ください。
凸と凹「登録先の志」No.27:我妻英司さん(認定NPO法人うりずん 事務局長)
1.何が問題か?
医療的ケア児の数はここ10年間で約2倍に増え、さらに、そのうち人工呼吸器を必要とする子どもの数は約4倍に増加しています。これだけ医療的ケア児の数が増えているのに、事業所の数は足りていないのが現状です。その結果、当たり前の日常生活が送れない家族が増えてしまっています。
医療的ケア児と家族の『暮らし』が悪循環に陥る原因は、「預かるだけの場所に子どもを預けざるを得ない」ことだと考えます。
例えば、親の都合で子どもを病院に預ける場合、病院に預けられた子どものほとんどは、不安やストレスから体調を崩すと言われています。病院は医療的には安全ですが、楽しく遊ぶ場所ではなく、「病気を治療する場所」だからです。
子どもが体調を崩すと、親は罪悪感を抱き、子どもを預けることを我慢し、家族にばかり負担がかかる悪循環が続いてしまいます。母親だけでなく、きょうだいはさみしい思いを我慢し、父親も仕事どころではなくなる、苦しい状態が続きます。
悪循環から抜け出すためには、『子どもが楽しく過ごし、親が安心できる施設があること』が必要です。親は「子どもの経験や成長のために」と思え、利用者である子どもは「楽しい! また行きたい!」と思える場所です。
「医療的ケア児と家族の存在が知られていないこと」が社会環境における悪循環となっています。医療的ケア児の存在を知っている人は、まだまだ多くありません。それは、医療的ケア児を見かける機会がほとんどないからでしょう。なぜかというと、医療的ケア児と家族が外出するためには大きなハードルがあるからです。
まず、人工呼吸器等のたくさんの荷物と、そして人手も必要です。いざお出かけの準備ができたとしても、「行き先に段差はあるか」「車いすやバギーが通れる幅はあるか」「入店を断られるかもしれない」など、不安に思うことが多くあります。医療的ケア児と家族が利用できるお店や場所も限られており、結果的に外出の機会が減り、医療的ケア児を見かけたことがある人、理解している人が地域に増えていきません。
この悪循環から抜け出すために、『地域の人たちに医療的ケア児と家族への理解を広める活動』を行います。地域に医療的ケア児と家族への理解者を増やし、安心して利用できるお店や場所を増やすことで、今よりも気兼ねなく外出ができる好循環が生まれます。
2.誰と解決するか?
医療的ケア児の多くは、左半分の、福祉サービス事業所や医療機関、特別支援学校など教育機関、行政と既につながっています。医療的ケア児が生きていくためには、これら多職種での連携が欠かせないからです。福祉サービス事業所は、左半分の医療福祉の業界としかつながっていないのが一般的です。
しかし、医療的ケア児と家族が、自分らしく活き活きと暮らしていくためには、それだけでは足りません。右半分の、「安心して預けられる楽しい場所」や「気兼ねなく利用できるお店」などを増やしていく必要があります。
一方、うりずんは医療福祉の業界だけでなく、長年にわたり地域の企業や団体との交流を重ね、相互に協力する関係を築いてきました。業種は衣食住の多岐にわたっています。そうした企業や団体と協力し、例えば、気軽に利用できる交通手段などのサービスを提供出来るつながりが生まれています。
私たちはこのうりずんの強みを活かして、医療的ケア児と家族が活き活きと暮らしていける地域のつながりをつくっていきます。
3.どう解決するか?
★ビジョン(ありたい社会像):障がいがある人もない人も 共に助け合える社会
★ミッション(うりずんの果たす役割):医療的ケア児と家族が楽しく安心して過ごせるために必要なサービス・仕組みを作り続ける
うりずんがこれまで行ってきた医療的ケア児のお預かり事業は、今後も継続発展させていきます。
ですが、それだけでは家族が安心して活き活きと暮らすことはできません。同時に今、緊急に取り組むべき課題があります。2021年の医療的ケア児と家族支援の法制化により、公的資金が以前より手厚く配分されるようになったのを受けて、「医療的ケア児は儲かる、ただ寝かせていればいい」といった利益優先の業者の参入が危惧されています。ケアの質の大幅な低下だけでなく、生命の危険も危惧されます。
また、家族への支援には公的財源がまったくありません。そこには、医療的ケア児への理解が進んでいない社会の現状が根底にあります。
それらの課題を解決するため、2024年度から『わたしの未来、あなたの想いと、やさしい街へ』プロジェクトを行います。
(1) 家族向け:家族交流会、きょうだい児参加イベント、母親の就労支援
(2) 他の医療福祉事業所向け:「安全・安心・楽しい」を広める
(3) 地域の人びと向け:医療的ケア児と家族への理解を広める
家族へのケアや医療福祉事業所の質的向上、地域への啓発活動を通じて医療的ケア児と家族が活き活きと暮らせる地域をつくっていきます。
4.“志金”のつかいみち
うりずんでは、医療的ケア児を安全安心にお預かりするために、ほぼマンツーマンの手厚い人員配置を行っています。そのため、うりずんほどの手厚い人員配置を想定していない既存の障害福祉サービスの公的財源だけでは足りず、その不足分を寄付や賛助会費が支えています。これは今後も続けていきます。
一方、『わたしの未来、あなたの想いと、やさしい街へ』プロジェクトには、公的財源がまったくありません。これまでのうりずんの収入、つまり、公的財源と寄付、賛助会費等だけでは、本プロジェクトに費用をまわせないため、新たな寄付財源として『マンスリーサポーター』が必要です。
2024年度はみなさまからご支援いただく“志金”を活用し、次の活動に取り組みます。
活動(1)
・家族が抱える孤立感を解消し、相談や情報交換ができるつながりをつくるために、家族同士の交流の機会を設けます。
・きょうだいだからこそ感じる気持ち・経験に寄り添う活動や、きょうだい同士がつながれるイベントを開催します。
・働きたい母親(主な介護者)の就労を後押しするため、人材紹介会社と提携し、働きやすい環境づくりに取り組みます。
活動(2)
・事業を始めたい人や事業をよりよくしたい・拡大したい施設などに対して、医療的ケア児が楽しく過ごせて、家族が安心できる場所づくりに関するノウハウを伝えるため、積極的な見学・実習の受け入れ、研修会の実施、ガイドブック作成に取り組みます。
活動(3)
・医療的ケア児と家族への理解を広めるため、各種メディア・SNS・HPなどで啓発活動を行います。
・地元栃木県内を中心に、医療的ケアがあっても行きやすい、気兼ねなく行けるお店や場所などの情報をまとめたマップを作成します。
本プロジェクトで、医療的ケア児と家族が活き活きと自分らしく、生きられる社会が実現します。
重い障がいや病気を抱えた子どもが生まれてくることや、不慮の事故などで子どもに医療的ケアが必要になることは、どの家庭にも起こりうることです。
もし自分自身に、もし家族や親しい友人に、医療的ケアが必要な子どもを迎え入れることが訪れた時、「安心して。子どもも家族もみんな、安心して暮らせる、それぞれの人生を自分らしく生きられる今があるから、大丈夫だよ。」そんなふうに、心から声をかけられる未来をつくっていきたいです。
「障がいがある人もない人も 共に助け合える社会の実現」をめざして、ぜひ、私たちうりずんの『わたしの未来、あなたの想いと、やさしい街へ』プロジェクトに、マンスリーサポーターとしてご参加ください。お待ちしています。
5.伴走支援者の声
2012年の法人設立からこれまでの11年間は、医療的ケア児を安全安心にお預かりするための「マンツーマンのお預かり体制」への寄付のみを募ってきたうりずん。
JPBVソーシャルビジネス支援プログラム「WILL」に参加し、『変化の法則』や『相関図』、『ロジックモデル』等を制作する中で、どんどん新規事業が生まれて、半年間でまったく違う団体に生まれ変わったかのように感じました。
私が思ううりずんのすてきなところは、『変化の法則』や『相関図』等の図をすべてデザインしてくれた事務局・内尾さんの「(1) デザイン力」、高橋理事長をはじめとした役職員さんたちの「(2) どんなことも全力で楽しむ姿勢」、多くの支援者が集う「(3) うりずん応援団の存在」の3つです。そこに新たな夢(プロジェクト)が加わり、今後どんな景色を新たに描いていくのかを考えると、わくわくします。
今回新たに立ち上がった『わたしの未来、あなたの想いと、やさしい街へ』プロジェクトは、すべて自主財源で賄わなければならないため、夢をかなえるためには、より多くの方の力が必要です。マンスリーサポーターとして、長い目で温かく見守っていただけるとうれしいです。(長谷川)