いけプロ@とかち
NPO法人U-mitte(ユーミッテ)代表理事の本間多香美です。14年前に初めて出会った我が子は、重い障がいを背負っていました。孤独でつらいことも多い育児でしたが、同じ境遇のお母さんや子どもたちと出会い、ママと子どもたちの太陽のような明るい笑顔に生きる勇気をもらいました。この子どもたちと家族が、地域で当たり前に普通の暮らしができるよう、「あったらいいな」を創るためにU-mitteを立ち上げました。
私たちは、子どもたちを通して出会った専門職の方たちが賛同して集まった小さな団体からスタートしました。各現場の第一線で従事していたスタッフが、重い障がいや医療的ケア、お母さんたちの心をサポートし、子どもたちは伸び伸びと成長し、お母さんたちは安心して日々の生活を送ることができるようになりました。医療の進歩により助かる小さな命が増え、その命は懸命に輝き続けています。どんなに障がいが重くても、医療的ケアがあっても、安心して生まれた街・地域で暮らしていける社会を実現するために活動を続けています。
そんなU-mitteの次の課題は「夜間」のサポートです。既存のサービスである「児童発達支援」「放課後等デイサービス」「居宅訪問型児童発達支援」「生活介護」や「スクールナース」の受託により、子どもたちに「日中」の活動の場を提供し、母子分離を可能にしてきました。しかし、「夜間」に安心して預けられる場所がありません。北海道札幌市のNPO法人ソルウェイズは、重い障がいがあったり医療的ケアが必要な当事者とその家族が、地域で生活を続けるための仕組みを全道に先駆けてロールモデル化する「いけプロ(北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト)」を展開しています。私たち「いけプロ@とかち」も、そのノウハウを共有いただき、北海道で2番目となる重症児者・医療的ケア児者の為のお泊りもできる拠点をつくり、帯広・十勝の課題解決をめざしています。
この問題の解決に挑む私たちの志は、以下の記事をご一読ください。
凸と凹「登録先の志」No.32:本間多香美さん(NPO法人U-mitte 代表理事)
1.何が問題か?
重い障がいがあったり、医療的ケアが必要な当事者とその家族の暮らしには、困難なことが多くあります。令和元年度障害者総合福祉推進事業「医療的ケア児者とその家族の⽣活実態調査」によると、主にケアを担うのはお母さんで(95.7%)、体調を崩しやすい子どもたちの毎日の健康管理や命に関わるケアは、日々緊張の連続です(68.0%)。お母さんの慢性的な睡眠不足(71.1%)や社会参画の制限、また、きょうだいがストレスを抱いているように感じている(59.3%)と言います。
このような暮らしを家庭の中だけの問題としてしまい、地域の問題として表面化しないままだと、当事者を支える資源やサービスが増えることにはつながらず、ますます地域で孤立してしまいます。今この地域の家族に必要とされている支援、特に夜間に安心して預けることができるサービスを含めた拠点を整備すれば、家族の実態を関係機関にも把握されやすくなり、地域全体で家族ごとサポートすることができます。暮らしを直接支援するだけでなく、家族が感じるさまざまな困難や実態を知ることは、それらを解決するしくみを生み出すために必要であると考えています。
2.誰と解決するか?
重い障がいがあったり医療的ケアが必要な子どもたちは個別性が高く、それぞれの配慮が十分に必要です。そのため、かかわる機関にはそれぞれの子どもたちをよく知る人がいます。しかし、現在のサービスには夜間対応ができる機関が少なく、一日を通して見守ることができるしくみがありません。
医療的ケアや重い障がい、病気があっても地域で安心して暮らしていくためには、当事者とその家族、地域の医療・福祉、行政、家族会、関係団体などとともに、夜間も含めた生活を支えることができる拠点が必要です。私たちは現在、看護師・保育士・児童指導員などで構成されたチームで、日中の長い時間、子どもたちと生活しています。よく知る先生、よく遊んでくれる先生が夜間も見守ることが、「子どもたちが行きたい場所」「安心して預けられる場所」「困った時こそ頼れる人がいる場所」につながると私たちは考えています。
3.どう解決するか?
U-mitte が掲げるビジョンの実現に向けて、2024年度から「いけプロ@とかち」をスタートします。
SDGsの目標年である2030年度に以下の長期成果を達成することをめざして、
●社会人となった子どもたちは独り暮らしをすることができる
●子が自立した親は第2の人生を歩むことができる
●家族のさまざまな選択肢が生まれ、地域で安心して豊かな暮らしができるようになる
2028年度までに夜間も安心して泊まれるショートステイのある複合型拠点施設を開設します。
今年度からは新たに訪問看護や居宅介護を取り入れ、通所と訪問で当事者の日中を支えます。この支援を通して、重症児者を支えるプロのチームとなるべく、人財の確保や育成に取り組みます。個別性の高い子どもたちには乳幼児期からかかわり、大人になってからも支援が途切れることなく受けられることが、子どもたちや家族だけでなく、支援する側にとっても最大の安心と自信につながると考えています。
また、家族会を発足し、家族同士の交流を後押ししてニーズを感知し、家族とともに未来に向かって歩みを進めます。その他、多様な関係機関との連携と協議の場を設け、地域が一丸となれるような関係づくりに努めます。
4.“志金”のつかいみち
みなさまからご支援いただいた“志金”は、いけプロ@とかち(北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト in とかち)がめざす、ショートステイのある複合型拠点施設をつくるための準備に活用させていただきます。
(1) 視察・調査
医療的ケア児を受け入れているショートステイを運営する施設への視察や、当事者家族のニーズを把握するためにアンケート調査を実施します。視察後のレポートや調査結果はホームページに公開します。
(2) ショートステイのシミュレーション
重症児デイサービス内でのお泊り会を開催します。ホームページやSNS等を通して活動報告を行います。
(3) 啓発・広報
事務局を立ち上げ、関係機関等への訪問・説明を行います。本プロジェクトの進捗は、ホームページやSNS等を通して報告します。
重い障がいや医療的ケアがあっても、住み慣れた地域で愛する家族と安心して暮らしていくために、このプロジェクトを立ち上げました。
重症児の親の多くは「手のかかる子で申し訳ないから」と感じ、「助けて」と安易に言えずにいます。それでも自分だけががんばればいいというのは、家族の自立を返って妨げているのではないかとも感じます。頼ることも自立であり、頼れる人がいることも実感してほしいのです。みなさまからの応援はとても励みになります。
いただいた大切な“志金”は、本プロジェクトの遂行のために役立てさせていただきます。応援、よろしくお願いします。
5.伴走支援者の声
U-mitteのたかみさんとの出会いは、「
いけプロ」を推進するNPO法人ソルウェイズの代表理事・よしえさんのアドバイスがきっかけでした。2028年度末までにショートステイを含む拠点施設をつくる計画を本格始動するにあたり、いけプロの立ち上げにかかわった弊社をご紹介いただきました。
弊社がこれまでにかかわってきた医療的ケア児者支援団体は、札幌市、仙台市、宇都宮市、名古屋市、京都市、熊本市と、すべて道・府・県庁所在地に拠点を置く団体でした。U-mitteが拠点を置く北海道帯広市の人口は約16万人、帯広市を中心とした「1市・16町・2村」で構成される十勝地域の人口は約32万人ということで、「いけプロ@とかち」は弊社にとっても新たなチャレンジだと感じています。
2024年3月から月に2~3回のオンライン会議でご一緒してきたたかみさんの印象は、とにかく「ガッツ」があることです。体調の起伏が激しい、医療的ケアが必要なお子さんを育てるだけでなく、(5月に開催した
凸と凹登録先向け集合研修でも吐露してくれましたが)経営的にも大変な中、毎回の会議で出される宿題にも、時には夜遅くまで取り組んでくれました。
「社会を変える」は思いつきで実現できません。社会を本当に変えられる、したたかで、しなやかな「戦略」が必要です。でも、その礎となる「ガッツ」も欠かすことができないことを、たかみさんは教えてくれました。ぜひマンスリーサポーターとして、たかみさんのガッツに触れ続けていただけるとうれしいです。(木村)