にもプロジェクト(障がい者にも優しい街づくりプロジェクト)
みなさん、こんにちは。
NPO法人支援センターあんしんの久保田学です。私たちの法人は、重度の知的障がいがある現会長の三女が、養護学校卒業後に日中通える場所が自宅の近くになかったことを受け、当時会長が経営していた会社の空きスペースを借りて利用者さん2名からスタートしました。
2002年に法人化し、日々お客様のニーズに応えることをコツコツ続け、22年経った現在は、働く場所や重度の方の通所サービス、空き家を活用したグループホーム等を運営し、延べ165名の障がい者の方の地域生活を支えています。
この他、地域のニーズに応え、特別支援学校や一般の小中学校のスクールバスの運行や、路線バス撤退後の市営バスの運行も、市から委託を受けて行っています。
これらのサービスを十日町駅を中心とした半径600mの範囲で展開し、そこでは多くの障がい者だけではなく、地域の高齢者がグループホームの世話人や送迎ドライバーとしてイキイキと働いています。
一方で、多くの障がい者の方は、一般就労ではなく、作業所で働いて得た工賃と障害年金で生活をしています。私たちは、この工賃を少しでも上げるべく、様々な事業に取り組んできました。トイレットペーパーを製造し、多くの企業や個人の方から購入していただいています。
さらに、事業所から一歩踏み出し、クリーニング工場や給食センター、施設の清掃や農業の担い手として、施設外就労にも取り組んできました。
この問題の解決に挑む私たちの志は、以下の記事をご一読ください。
凸と凹「登録先の志」No.33:久保田学さん(NPO法人支援センターあんしん 常任理事・事務局長)
1.何が問題か?
おかげさまで、私たちは事業所で働いている障がい者の方に対し、全国の平均工賃を超える金額を支払うことができています。しかし、地域に目を向けると、国が保障する最低限度の生活水準である生活保護費を下回る方が多く、親族等からの支援を受けないと生活するのが難しい方が存在します。
日々、工賃向上に取り組んではいるものの、人口減による急激な社会の変化の影響を受け、地域産業は衰退し、私たちの努力だけでは対応できないということに気がつきました。
今年、人口戦略会議において、2050年消滅可能性自治体として前回に引き続き十日町市は選ばれ、このまま何も手を打たなければ、衰退の一途をたどるのは明白です。
2.誰と解決するか?
先行事例1:社会福祉法人佛子園・
シェア金沢
高齢者、大学生、病気の人、障がいのある人、分け隔てなく誰もがともに手を携え、家族や仲間、社会に貢献できる街づくり(ごちゃまぜの地域づくり)を行っている。街の中にサ高住や児童入所施設、障がい者の働く場所をつくり、外部からさまざまな年代の方から来てもらう(暮らしてもらう)仕組み。
先行事例2:
久遠チョコレート
チョコレートの製造を通し、障がいが重くても働ける仕組みづくりを行っている。高付加価値商品を製造することで、高い工賃を支払うことができている。作業工程や材料の製造を一元化することで、他地域への横展開ができている。
この状況を打破するために、20年以上かけて地域内で積み上げてきた関係を活かした「障がい者支援事業」を継続しつつ、地域のニーズに合わせて、サービス内容を変化させていきます。
また、人口減少に伴い不足していく地域の労働力や経済活動を補うために、今までも行っていた「地域支援事業」において、「にもプロジェクト」を立ち上げ、新たに3つの事業をスタートします。
いままで一緒に地域をつくり上げてきたメンバーだけではなく、地域外の個人や企業等にも働きかけることにより、新たな関係人口を生み、紡いでいくことで、地域に対して少しでも貢献できればと考えています。
3.どう解決するか?
「にもプロジェクト」は3つの事業で構成されています。
◆マッチング支援事業:農福連携コーディネーターとしての経験を活かし、地域内の働き手不足の事業所と障がいがある方の時間単位でのマッチングを支援します。この活動を通し、将来的には就職をめざします。
◆あんしんチケット事業:ふるさと納税の返礼品として、あんしんを応援してくれる企業(継続的な寄付やトイレットペーパーを継続的に購入いただいている飲食店や企業等)で使えるチケットを発行し、障がい者に対する理解がある地域内の事業所が継続して運営できるように支援します。ふるさと納税(十日町市ふるさと応援寄付金)の仕組みを活用することにより、外部の方から十日町市に足を運んでいただき、消費活動を促進します。
◆帰る旅事業:地域外から十日町市に興味を持って訪れる方に対し、ワークセンターで決まった時間働いていただくことを条件に、法人が所有しているゲストハウスに無料で宿泊できる仕組みを、リクルートのじゃらんリサーチセンターと雪国観光圏と共同で運営します。一人でも多くの方に十日町市へ足を運んでいただくきっかけになればと考えています。
https://jrc.jalan.net/kaerutabi/
4.“志金”のつかいみち
(1) ホームページ・情報誌:40万円
情報誌や年次報告書の発行、LINEやホームページであんしんの活動の様子をお届けします。
(2) にもプロジェクト運営費:260万円
マッチング支援やあんしんチケットの運用をするための経費(人件費や印刷代等)の他、帰る旅事業で使用する物件の光熱水費や維持費等で使用します。
新潟県はかつて明治時代の末期に、広大な農地を原動力に日本一人口が多かった時期がありました。その後、十日町市でも織物産業が栄え、人口が10万人を超えた時期もありました。また、もっと昔この地は、縄文人が暮らしていたと思われる形跡が多く残ります。そんな可能性のあるこの地が、歴史の中で衰退していくのをただ見ていることはできないと思い、今回このようなプロジェクトを計画させていただきました。
積雪も多く、暮らすのには大変な場所と言われますが、そこに生活する方たちはとても親切で、外部の方を受け入れる包容力があります。世界的にも注目されている大地の芸術祭が成功しているのも、この要因が強いからではないでしょうか。この地を少しでも、住み続けられる街にするために、私たちは内外の方の力を借りて、このプロジェクトを一歩ずつ進めたいと考えています。ご協力、よろしくお願いします。
5.伴走支援者の声
支援センターあんしんのまなぶさんとは2020年、新潟県労働金庫さんからご依頼いただいた職員研修で初めてご一緒しました。当時はコロナ禍で、オンラインでのやりとりでしたが、冬は雪深い5万人の街にこんなすごい団体が存在するなんて、衝撃を受けました。そのすごさは、
こちらの訪問記や、書籍『
いのちを拝む』で、ぜひご確認ください。
そんなすごいあんしんでも抗うことが難しい事象が「人口減少」です。まなぶさんと出会ってからの5年間だけでも、十日町市の人口は4,500人以上減少しています。障がいのある方の工賃を上げることができても、街が存続できなければ、誰もが「あんしん」していきいきと生活することはできない。そんな危機感から「にもプロジェクト」は生まれました。
人口減少は日本全体のトレンドですが、障がいをもった方が半径600メートル以内の空き家等に集住し、町内によっては障がい者の方が多く暮らす十日町なら、地域からなくなると困る交通や給食、クリーニング等の事業を、障がい者とともに引き受けてきたあんしんなら、きっと乗り越えてくれるのではないか。そんな期待を抱かずにはいられません。(木村)