地域まるごとファミリープロジェクト
はじめまして。
認定NPO法人光楽園の尾籠信義(おごもりのぶよし)です。私たちは、こどもが本来持っている「生きる力」の育ちを支える保育・療育をめざし、「認定こども園おひさまいっぱい光楽園」「児童発達支援施設みんなの光楽園」「放課後等デイサービスみんなの光楽園」の3施設の運営を主な活動としている団体です。
2005年から始めた一時預かりの託児所を、古民家を改築した「おひさまいっぱい光楽園(当時は認可外保育施設、18年より認定こども園となる)」へ12年に移転・開所して活動を本格的にスタート。自然豊かな環境に恵まれたこの地で、自由な遊び、斎藤公子メソッド保育(※)、無農薬野菜を中心とした給食等、今の光楽園のすべての活動の基礎となる保育に取り組んできました。
※リズム遊びや絵本の読み聞かせ、描画活動、土や水に親しむ遊び等を通じてこどもの身体機能と精神の健やかな育ちをめざす保育。「さくら・さくらんぼ保育」とも呼ばれている。
17年には「児童発達支援施設みんなの光楽園」を開所。おひさまいっぱい光楽園では受け入れることができなかった、発達障がい等「生きづらさや困りごとを抱えたこども」も受け入れ、一人ひとりのこどもたちに応じた丁寧なかかわりや、言語療育等の個別の療育を実施。また、別々の場所にある施設を行き来しながら、おひさまいっぱい光楽園の園児たちの保育や活動に参加する機会を積極的にもち続けてきました。お互いが日常的にかかわることで、こどもたちは多様な存在を仲間として受け入れ、助け合い、ともに生きていく力を育んでいくことを実感。現在では両施設を併用するこどもも増えてきています(23年7月1日現在6名が併用中)。
また、児童発達支援事業所を卒園したこどもたちを小学校に上がって以降も途切れなく支援するために、20年に「放課後等デイサービスみんなの光楽園」を開所しました。
また、おひさまいっぱい光楽園の卒園児の保護者からの「夏休みくらいはこどもたちが思いきり遊べる機会がほしい」という願いに応えて始めた長期休み期間限定の学童保育や、個別に不登校児の受け入れ・食事提供支援・家庭訪問支援等を通じて困りごとに柔軟に対応したり、場合によっては行政や地域の専門機関とチーム連携をしてこどもの困難解決にあたる等の取り組みを進めてきました。
今では、おひさまいっぱい光楽園在園児58名、児童発達支援みんなの光楽園登録園児23名、放課後等デイサービス事業所登録児童24名、学童保育利用児童43名等、施設利用やかかわるこどもが増えてきています。
私たちは、もっと深くもっと多くのこどもたちとかかわり、地域や行政・専門機関の方とつながりながらこどもの生きる力の育ちを支えていきたいと考え、めざすべき社会像を「こどものいのちが輝く共生社会」と定めました。具体的には以下の2つです。
(1) 困りごとを抱えたこども等も含めたすべてのこどもたちがのびのびと生きる力を育み、ともに生きていく社会
(2) こどもをまんなかに、地域社会全体が家族のようにかかわり合いながらこどもを受け止め、支えていく社会
そして、その実現をめざすべく「地域まるごとファミリープロジェクト」を立ち上げました。多くのみなさんのご理解とご支援をお願いします。
この問題の解決に挑む私たちの志は、以下の記事をご一読ください。
凸と凹「登録先の志」No.25:尾籠信義さん(認定NPO法人光楽園 理事長)
凸と凹「登録先の志」No.26:田中由布子さん(認定NPO法人光楽園 おひさまいっぱい光楽園 副園長)
1.何が問題か?
★困りごとを抱えた当事者
発達障がい等の困りごとを抱え、豊かな自然環境等で遊ぶ機会に恵まれず、親・保護者にも思いを充分受け止めてもらっていないこども
★困りごとを象徴する数字
【こども】
・小中学校の8.8%は発達障がいの可能性があるとの報告があります(文部科学省2022年度調査)。
・児童虐待相談件数が207,659件(21年度)およそ2.5分に1件の通報が児童相談所等に入っています。
・不登校児童数は244,940人(21年度)、小学生は2クラスに1名、中学生は1クラスに2名の割合になっています。
【親】
こどもを受け止め、支えていく親も、孤独な子育て=「孤育て」といわれる状況が広がっており、さまざまな悩みや困難さを抱えています。
・一人親世帯が増加し、20年にはこどものいる世帯の約1/4になっています(20年国勢調査より)。
・ベネッセコーポレーションの「第6回幼児の生活アンケート」では、こどものしつけや教育の情報源となっている対象が15年から大きく減っている(母方の祖父母:15年43.1%→22年26.6%、母親の兄弟や親戚:15年23.8%→22年13.4%、母親の友人・知人:15年72.0%→22年36.0%)等、子育ての協力を周囲から得にくい状況が広がっていることが鮮明になっています。
文部科学省令和2年度青少年の体験活動に関する意識調査では、小学生の頃のさまざまな体験活動(自然体験)は、こどもの自尊感情や外向性等にいい影響がみられる結果が得られています。また、特に幼少期の自然遊び・自然体験は、五感(感覚機能)や身体機能、意欲、想像力等、「こどもの生きる力の基礎」を豊かに育んでいくといわれており、私たちの保育・療育の経験でも強く実感しているところです。
一方で、同調査によると「海や川で泳いだ経験がほとんどない:平成24年14.7%→令和元年19.3%」「チョウやトンボ等の昆虫をつかまえたことがほとんどない:平成24年20.5%→令和元年26.4%」等、自然体験が徐々に減ってきており、コロナ禍以降はさらにその傾向に拍車がかかっていることが予想されます。
特に発達障がい等の困りごとを抱えたこどもは、自然遊び・自然体験の経験が乏しくなる傾向があり、家に引きこもりがちになり、ゲーム依存症等になるケースが多いとの報告もあります。
私たちは、今こそすべてのこどもたちに、自然遊び・自然体験の機会や場を保障していくことが重要であると考えています。
「孤育て」が常態化しつつある今、親・保護者自身が心のゆとりを持てず、こどもからの発信や思いを充分に受け止めることができなくなっています。特に発達障がいなどの困りごとを抱えたこどもがいる家庭では、親・保護者の困難・負担が大きく、こどもの困りごとが深刻化する傾向が強くなります。
私たちは、これまで施設運営を通じてさまざまな家庭や親・保護者に寄り添い、ともにこどもたちの発信や思いを受け止める取り組みを続けてきました。しかし、親・保護者の困り感は多様化・複雑化しており、試行錯誤を重ねています。今後、親・保護者ともっと深くかかわり、施設OBや地域のみなさん、子育て支援活動団体等と連携しながら、こどもを支えていく必要性があることを痛感しています。
現在、こどもをめぐる社会課題が多様化していることに対応して、児童福祉や教育等の公的支援の制度・仕組みも多様化・細分化してきています。その結果、個別の課題への対応はきめ細かくできるようになりましたが、一方でこどもの全体像が捉えにくくなり、迅速で充分な対応・支援が難しくなっています。
私たちはこれまで、不登校児への対応等で行政の関係機関や地域の専門機関と連携し、「チーム」でこどもをまるごと捉え、支えていく取り組みを個別に進めてきました。そして、支援が迅速かつ充分に行き届く中でこどもが大きく変化し、成長を遂げる姿を何度も見てきました。このような、こどもをまんなかにした連携支援チームをもっと幅広くつくり、地域全体に広げていきたいと考えています。
2.誰と解決するか?
「It Takes a Village to Raise a Child.(一人の子どもを育てるには一つの村が必要)」。アフリカに古くから伝わる言葉です。こどもをめぐる社会課題が多様化・複雑化し、「孤育て」が常態化している今、このことばのように地域社会全体でこどもの育ちを支えていく必要があると考えます。私たちは、光楽園の施設を利用するこどもの親・保護者、OB、地域の子育て支援団体と連携を深めて家族のような関係を紡ぎ、こどもを包み込んでいきます。また、これまで取り組んできた行政機関・専門機関等とのチーム連携をさらに進め、こどもの困りごとの解決に力を注いでいきます。光楽園の施設・活動のウイングも、保育所等訪問や相談支援、こどもショートステイ等を一つひとつ広げていき、地域の関連施設(幼稚園・保育園・児童発達支援センター等)との連携を通じて幅広くこどもを支えていきます。
3.どう解決するか?
私たちはSDGs目標達成年度となっている2030年度、こどものいのちが輝く共生社会が北九州市全域に広がっていることをめざし、23年度から「地域まるごとファミリープロジェクト」を始めます。
1.地域まるごとファミリープロジェクト「ホームづくり」
(1)「こどものいのちが輝く共生社会」の中核となる複合施設として、また、自然遊びや自然体験を多くのこどもたちに提供し続ける場として、「こどもの郷ソレイユ」をつくります。24年に建設、25年に施設運営の開始を予定しています。「認定こども園」「児童発達支援&放課後等デイサービス」「地域子育て支援ルーム」の複合施設は全国でほとんど例がありません。
(2) こどものさまざまな困りごとやその家族の悩みを受け止め、支えていく活動をする拠点として、現在のおひさまいっぱい光楽園の施設を改修した「こどもの郷リエゾン」を開設します。リエゾンでは、こどもショートステイや、制度の隙間で行き届きにくいこども支援センター( 「不登校児の居場所」「家庭訪問支援」「食事支援」等)を実施します。将来的には、里親の啓発や里親支援も活動内容に加えていきたいと考えています。
2.地域まるごとファミリープロジェクト「人・ネットワークづくり」
(1) 現在の光楽園の各施設の職員や利用児童の保護者、保護者OB等で、光楽園コミュニティ「地域まるごとファミリーネットワーク」を発足し、交流・学習するイベントを開催したり、光楽園の日常活動やこども支援の取り組みをボランティアでサポートします。
(2) 地域の子育て団体との連携・協働し、このネットワークの輪を広げていきます。
(3) 各施設が存在する地域のみなさんと日常的に交流できる仕組みをつくり、つながりを深めていきます。
3.地域まるごとファミリープロジェクト「こども連携支援チームづくり」
(1) 行政の児童福祉関係機関・社会的養護関係機関・教育機関等や、地域の医療等の専門機関と光楽園が組織を超えて家族のようにつながる「こども連携支援チーム」を編成します。対象となるこどもの全体像をまるごととらえ、その困りごとに対し、迅速・柔軟・的確に対応する取り組みを進めます。
(2) こども連携支援チームの実践内容を、研究発表や交流会等のイベントで地域に発信・共有していきます。
4.“志金”のつかいみち
2023年度はみなさまからご支援いただいた“志金”を活用し、「地域ファミリープロジェクト」のスタートとして以下の取り組みを行います。
活動(1)「こどもの郷」のプランづくりを、職員や親・保護者、地域の子育て支援団体のみなさん等の意見を幅広く集めながら進めます。
活動(2)「地域まるごとファミリープロジェクト」を進めていくために必要な広報やネットワークの仕組みづくりを行います。
活動(3)「地域まるごとファミリーネットワーク」の結成イベントを実施します。
活動(4)「こども連携支援チーム」の実践報告・交流会を開催します。
近年のさまざまな研究の中で、私たち人類の祖先(ホモ・サピエンス)が他の人類(ホモ・ネアンデルタール人等)との厳しい生存競争に勝ち残った要因は、(1) 共通の言語と共感能力を身につけたこと、(2) 共同体全体でこどもを養育する仕組みを保持していたことと言われています。ホモ・サピエンスが誕生したアフリカの地で「一人の子どもを育てるには一つの村が必要」という言い伝えが残り、今世界中に広がっていることは偶然とは思えません。
私たちは、こども家庭庁が提唱する「こどもまんなか社会」の一つの具体的な形として、「こどものいのちが輝く共生社会」の実現に力を注ぎます。そして地域全体が家族のように関係を紡ぎながらこどもの育ちを支えていくロールモデルをつくり、社会全体に広げていきたいと考えています。
日本の社会全体が「子どもを育てる一つの村」になる第一歩を、ぜひみなさんの参加で支えていただきたいと思います。
5.伴走支援者の声
光楽園との出会いは、凸と凹に「
Be Happyプロジェクト」を登録する
NPO法人わくわーくの小橋さんからお声がけいただいて参加した、北九州市市民活動センター主催の
オンラインイベントでした。尾籠さん(おごちゃん)との過去のやりとりを確認すると、このイベントが2023年1月25日で、最初の打ち合わせが1月30日でしたから、「あっという間」に光楽園への伴走支援は始まったことがよくわかります。
ちょうどその頃、おごちゃんたちは、光楽園の利用者のみなさんを中心に200名以上の寄付者(1名3,000円以上)を「あっという間」に集め、認定NPO法人に申請しようとしていました。この「あっという間」が実現できるのは、おごちゃんたち役職員の熱意はもちろん、光楽園がこどもたちにとってかけがえのない場所になっているからだと思います。
その後、半年間で計20回のオンライン会議を重ね、認定NPO法人となった光楽園はウェブサイトも新設し、「地域まるごとファミリープロジェクト」を開始しました。来年24年には法人化10周年を迎えます。この10年もきっと「あっという間」だったと思いますが、それ以上にこどもたちの成長は「あっという間」です。この光楽園のスピード感を、マンスリーサポーターとしてぜひ体感してみてください!(木村)